糸を噛む~死を待つ王女に捧げる仕立て屋の深愛~ (浅見,鈴ノ助,夢中文庫プランセ)

TL小説

著者      :浅見
イラストレーター:鈴ノ助
レーベル    :夢中文庫プランセ
出版社     :夢中文庫
出版年月    :2022年8月

ジャンル   :TL、ファンタジー
ヒーロータイプ:宮廷付き仕立て屋。才能があり庶民から一代貴族に成り上がる。素は粗野な自信家。
ヒロインタイプ:王女。王家の人間として立場を弁え、恋心を押し隠している。
Hシーン   : 有り

あらすじ

服飾文化によって発展したレイアドル王国の王女レオノーラは、自身の社交界デビューのドレスを仕立ててくれたエドガーに強い憧れを持ち、恋心を抱いていたが、隣国の王太子と婚約中の身なのでこの恋は結婚するまでのものと分かっていた。18歳になり、ウェディングドレスも出来上がる時期に突如クーデターが起こり、レオノーラは処刑のために塔に幽閉されることになり・・・

ネタバレあり感想

ヒーローが元一般庶民の仕立て屋というのは、TL作品ではなかなか異色のストーリーだと思います。

あらすじにも書いたとおり、レオノーラのいるレイアドルという国は、服飾文化が盛んで、王族の衣服は三大商会に所属する「宮廷付き仕立て屋」が用意する決まりになっています。
三大商会を平等に扱うために、基本的には王族は仕立て屋を指名できないのですが、人生において3回だけ指名することができます。

その1回目である社交界デビューのときに、レオノーラは当時の宮廷付き仕立て屋が出してきたデザインが気に入らず、今とても人気があると噂の、街の仕立て屋エドガーに依頼します。彼がデザインしたドレスはレオノーラを引き立たせる素晴らしいもので、レオノーラは魅了され、これを作ったエドガーという人に強い憧れを抱きます。

エドガーも王女のドレスをきっかけに名声が高まり、宮廷付き仕立て屋になり、遂には一代限りの爵位が与えられることとなります。
そしてその祝賀会で初めてエドガーを目にしてレオノーラはさらに恋に落ちてしまいます。
とはいえ、隣国王太子と婚約中の身。
この想いは素敵な想い出として胸にしまっていくはずでした。
そして2度目の指名機会であるウェディングドレスもエドガーに依頼し、結婚を待つ18歳の年、突如クーデターが起こり、レオノーラは断頭台に送られるまで塔に幽閉されることになるのです。

先ほど「人生において3回だけ指名することができる」と書いたように、レイアドルの王族は、社交界デビュー、結婚のほかに、「自身が処刑されるときに着る黒衣」を指名することができます。
せっかく作っていたウェディングドレスがクーデターで用無しになり、腐っていたエドガーの元に、レオノーラが黒衣をエドガーに依頼したいと言っていると連絡がきます。
そこで彼はレオノーラが幽閉されている塔へ赴くことになるのです。

エドガーは自分の仕事へのプライドが高く、自分のデザインを理解できるかどうかで人を判断しています。
レオノーラはエドガーを指名してくるから自分のドレスを気に入っているはずなのに、彼女は誰に対しても、どんなドレスを目にしても王族としての微笑みを見せるだけ。
それが気に食わないエドガーは、死に装束である黒衣も完璧なものを作ってやろうと意気込んでいるのですが、塔で二人きりで過ごす間に心境が変化していきます。

理不尽なクーデターで処刑を目の前にしても、婚約していたはずの隣国から見捨てられても、取り乱さずにいる王女にイライラが募ります。
そしてそれはいつしか「どうしてもこの女を死なせたくない」と思う気持ちに変わっていき・・・

読者はレオノーラの秘めた恋心を知っています。黒衣を仕立ててもらう間だけの最後の時間をエドガーと過ごしたい。一方で王族としての生き方しか知らない不器用さもある。
エドガーはそれを知らないし、なんだか分からないけどとにかく王女の態度に気持ちが揺れてしょうが無い。惹かれていくのを止められない。
そんな二人の張り詰めた関係が続くのが途中しんどくなって、私はいったん読むのを中断してしまいました。
小説だからきっと最後はハッピーエンドになるに違いないと思いつつも、数日後には処刑されてしまうのに助けるすべが見つからないという状況に胸が痛くなりました。

中断から再開して読み始めたところで、エドガーが起死回生の策を思いつき、実行に移していきます。
とにかくここからエドガーが熱い。
レオノーラという女を救うために、彼の全てで挑みます。
彼の情熱に周りも動かされていきます。

どうやって彼がレオノーラを救い出すのか、そして二人がその後どうなるのかはぜひ実際に読んでいただくとして、とにかく「途中で止めずに読み切って良かった!」と思いました。

粗野でちょっとひねくれてて決して甘い男ではない、自分の腕に自信があるだけの仕立て屋が、惚れた女のために人生を賭ける壮大な愛の物語。まさに深愛。
ただただ女の幸せを願ってやり切った男が報われて幸せになるまでをぜひ堪能してください。

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