著者 :なとみ
イラストレーター:くにみつ
レーベル :アマゾナイトノベルズ
出版社 :アマゾナイトノベルズ
出版年月 :2022年10月
ジャンル :TL、ファンタジー
ヒーロータイプ:非常に優秀だが何かに執着することもなくそつなく仕事をこなし淡々としている。
ヒロインタイプ:平民出身の二級魔術師。正義感が強く真面目で頑固。性に対しては堅くない。
Hシーン : 有り
あらすじ
国立魔術総合研究機関の新規魔術第二研究室で働く二級魔術師のナリアは、雑務もこなしながら世の役に立つ新しい魔術の研究をしている。魔術師の査定のため研究を提出しているが、いつも第一研究室長が委員長を務める審議会で却下され、苛立ちを募らせている。そんなナリアにある日突然第一研究室長が自分の部下である補佐官との見合いを勧めてきた。怪しさ満点の話だが、一般家庭育ちで後ろ盾が欲しいナリアは、いったん乗ってみることに・・・
ネタバレあり感想
最初、一読したときはそんなに惹かれなかったのですが、何となく気になって何度も読み直してしまった作品です。本編以外に番外編が4作(うち1作は電子書籍版書き下ろし)入っているのですが、番外編も良い、というか「番外編があるからより良い」と私は思いました。
あらすじにもある通り、ナリアは真摯に研究に取り組んでいるのですが、審議会で何度も却下されています。というのも、ナリアの研究テーマが「全家庭の子どもたちに一律に魔力調査」を行うものだからです。
ナリア自身が両親に大きな魔力のない家庭で苦労したため、魔力のある子どもに適切な教育を受けさせるための研究ですが、魔術師の世界では貴族の力が強いため、平民の魔術師が増える、貴族に不都合な研究として、貴族を優遇する第一研究室長に邪魔され続けています。
そこへ突如、天敵の第一研究室長から自分の補佐官とお見合いをしないか、との話。
怪しさ満点ですが、お見合い相手が名誉魔術師の孫と聞いて、後ろ盾が欲しいナリアは会ってみることにします。
相手のバートは室長の補佐官として顔を合わせているはずなのに顔が思い出せないくらい、印象が残らない男。会ってみると、身長が高くて爽やかなイケメンでどう見ても好物件なのに、何のメリットもないナリアと見合いをする。おまけに笑顔が胡散臭すぎる。
本能的にどうにも引っかかりますが、2人で話してみると物言いは正直だし、ナリアの研究を後押ししてくれると言います。
迷いつつもナリアは結婚を前提にお付き合いを始めることに・・・
導入が長くなってしまいましたが、この辺のナリアの「どう考えても胡散臭い・・・」と時間をおいてじっくり判断しようとしているところが、冷静でとても良いです。
TL小説はすぐに怪しい偽装恋人とか契約結婚しちゃって「もっと良く考えろや!・・・ホラ、言わんこっちゃない!!」ってことが多いので。(今回は偽装ではないですが)
でも結局のところ、この話の真の主人公は、ある意味ナリアじゃなくてヒーローのバートなんですよね。
本当はすごく優秀なのに、実家のしがらみなどにより、何にも執着せず、当たり障り無く、自分を出さずに淡々と仕事をこなしてきたバート。
お見合いも、上司に言われて特に断る理由も無かったし、親にお見合いさせられるのが面倒で受けただけ。
そんな男が、直情径行でサバサバしているナリアと過ごすうちに、無自覚に恋に堕ちていくのです。
長い時間一緒に仕事をしている同僚は、彼の薄らとした変化に気づくのですが、本人は自分がナリアにハマっていることに全然気づいていない。
気づいたときには、ナリアとの間に大きな溝が出来ていて・・・
そこから彼の静かなる奮闘は本編をお読みいただくとして、それよりも、この話はHシーンがどれも良い!!!
結婚前にナリアが2人の身体の相性を確かめようとする初めてのシーンで、ナリアは「この人性欲ないんじゃないか」くらいに思って余裕をかましていたのに、キスだけで「この人、上手い・・・!」と経験の差を思い知らされ、意地悪な表情で翻弄され、いつのまにか主導権を奪われてトロトロにされてしまいます。
言葉と表情によるソフトS責め・・・素晴らしい。
その後も随所でHシーンありますが、ソフトS好きにはたまらないです。ナリアは奔放とまではいかないですが、お堅くはないので、翻弄されっぱなしなことに悔しがりながらも良い反応を見せています。
職場では仕事熱心で生真面目な女が、自分の下で乱れている、なんていうのもバートがハマった一因なんでしょうね。
最終的にはバートもナリアへの想いを自覚して、2人の仲は戻ります。
彼が想いを口にするようになって、ナリアの前では完全に素なのか、と思っていたのですが、今改めて読み返していて「ナリアの前では猫をかぶっている」と書いてあったので、「恐ろしいヤツ・・・!」と思いました。でもそういうヒーロー像、大好きだぞ!
本編は、基本的にナリアや第三者の視点で進むので、バートが何を考えているのか、推測するしかないのですが、番外編はバート視点なので、語られなかった彼の背景が読めます。個人的には溝が出来ていたのときのことを書いた『夢で見た自分』が好きです。必読です!